金山ダム(鴨川市)
『千葉県の心霊スポットと言えば?』と尋ねられたとき、地元の方の口から最も早く出てくる名前のひとつが、金山ダム(かなやまだむ)だと思います。
鴨川市の北西部、打墨(うっつみ)の山あいに広がる、ひっそりとした農業灌漑用のダムです。
完成は昭和四十一年(一九六六年)。
昭和二十七年(一九五二年)の着工から、実に十四年の歳月をかけて造られました。
金山川を堰き止めて生まれた湖は、地元では『金山湖』と呼ばれ、ヘラブナ・ブラックバスの釣り場としても古くから親しまれています。
ところがこの場所が、釣り人たちの楽しい記憶のほかに、関東地方の心霊愛好家にとって特別な意味を持つようになったのは、ダム完成からおよそ三十年が経った頃のことです。
怪談の語り部・稲川淳二氏が、心霊探訪番組『恐怖の現場』のなかで、ご自身が夢で見たという心霊スポットとしてこの金山ダムを取り上げました。
テレビカメラがダムへ向かう細い山道を進み、素掘りのトンネルを抜け、赤い木製吊り橋を渡り、湖を見下ろすという映像は、当時の心霊ファンの記憶に強く焼き付いています。
それ以降、金山ダムは『稲川淳二が認めた心霊スポット』として全国に知られる存在となりました。
二〇一〇年代以降は、島田秀平氏ら現代の怪談師たちのYouTubeチャンネルでも繰り返し取材され、関連動画は五十本以上に達するといわれます。
このスポットの特異さは、心霊スポットとしての構造が地形と完全に一体化していることだと感じます。
ダム本体に近づくには、まず曲がりくねった素掘りトンネルをいくつか抜けなければなりません。
岩肌がそのまま剥き出しになった天井の低いトンネルは、車一台がぎりぎり通れる幅で、内部は照明がほとんどなく、昼間でも暗闇に近い空気に包まれています。
トンネルを抜けると、今度は赤い塗装の木製吊り橋——通称『赤橋』——が湖の上に架かっています。
この橋を渡って素掘りトンネル四基の連続区間に入ると、いよいよ金山湖と金山ダム本体が眼前に開ける——という構造です。
トンネル・吊り橋・湖が三段構えで連続するこの地形は、心霊体験の語り口を増幅させる装置のような働きを長年してきました。
語られる怪異の代表は、赤い服の女性の霊です。
トンネルの曲がった箇所、特に素掘りトンネルの内壁にもたれかかるように立っているという目撃談が、戦後数十年にわたって積み重なってきました。
その姿はぼんやりとした赤色の人影として記憶されることが多く、近づくと姿が消える、振り返ると今度はトンネルの反対側の壁に立っている、と語られます。
続いて多いのが、心中したカップルの女性の霊の話です。
赤橋の下、湖の水面付近にうずくまる若い女性の姿が見える——という目撃が、近年のYouTube動画でも繰り返し報告されています。
トンネル内では、女性のうめき声、子供をあやすような子守唄、『助けて』という細い声が聞こえたという話を耳にします。
子守唄については、子を抱いて湖に入った女性、もしくは子を残してここで亡くなった女性の歌声ではないか、という解釈で地元では語られてきました。
最近の体験談では、スマートフォンの画面越しに『こちらに走って突っ込んでくる中年男性』の姿が一瞬映り込んだ、橋を渡る際に下から何かに突き上げられる感覚を覚えた、耳元で何かを囁かれているような違和感が続いた、という報告も出てきています。
コメント欄には『茶髪の女の髪が多数からみついた』という、より直接的な体験を記す投稿も残されているそうです。
二〇二六年一月の時点で、赤橋は老朽化と安全上の問題から完全に立入禁止となりました。
現在は橋の手前で柵が設置され、向こう側へ渡ることはできません。
ダム本体への一般車両通行も、時期によって制限されます。
釣り場としての利用は別途許可が必要で、夜間の入場は推奨されていません。
私が金山ダムの話を読むときに考えるのは、ここがただの『稲川淳二で有名になった場所』ではなく、千四百年以上の歴史を持つ房総半島の山間部に造られたダムだという事実です。
ダムが造られる前のこの谷には、当然のように人々の暮らしと祈りがあり、ダム湖の底には、その記憶のいくらかが今も沈んでいます。
怪異の話は、土地の記憶と新しい構造物が出会ったときに生まれる、独特の現象なのかもしれません。
皆さんが訪れる場合は、立入禁止区域への侵入は絶対に控え、外周の道路から景観を楽しむにとどめていただきたい場所です。
金山ダムは1952年着工・1966年完成の農業灌漑用ダムで、稲川淳二の『恐怖の現場』で取り上げられて以降、千葉県を代表する心霊スポットとして知られるようになりました。
- 古代鴨川市北西部の山あいに、房総の古代王に関わる祭祀遺跡・伝承が残る
- 戦前〜戦後初期金山川流域に小規模な集落と農地、祠や墓地が点在
- 昭和27年(1952年)金山ダム建設工事着工。集落の移転と用地買収が進む
- 昭和41年(1966年)金山ダム完成。金山湖が誕生し、農業用水と釣り場として利用が始まる
- 2000年代初頭稲川淳二がテレビ番組『恐怖の現場』で取り上げ、心霊スポットとして全国に知名度が広がる
- 2010年代以降心霊系YouTubeチャンネル(島田秀平・ゾゾゾほか)の取材が相次ぎ、関連動画が50本以上に
- 2026年1月老朽化と安全上の問題から赤橋が完全立入禁止に。心霊スポット巡りの訪問者対策の側面も含むとされる
- いちばんよく語られるのは、ダム手前の素掘りトンネル内で目撃される『赤い服の女性の霊』です。トンネルの曲がった箇所の内壁にもたれかかるように立つ姿で目撃され、近づくと消える、振り返ると反対側の壁に立っている——という共通パターンが、戦後数十年にわたって複数の体験談で報告されています。色彩としての『赤』が記憶に強く残るという特徴があります。
- 赤橋の下、金山湖の水面付近にうずくまる若い女性の姿が見えるという話があります。地元ではカップル心中の女性の霊として伝わってきました。湖面の反射と岩陰の影が組み合わさって生まれる視覚効果という説明もできますが、複数の同行者が同じ場所で同じシルエットを見たという証言が積み重ねられています。
- トンネル内で『助けて』という細い声、女性のうめき声、子守唄のような旋律が聞こえたという報告があります。子守唄は、子を抱えて湖に入った女性、あるいは子を残して亡くなった女性の歌声だと地元では解釈されてきました。湖の水音と岩の反響でこうした音色が生まれる地形でもありますが、明瞭な言葉として聞こえたという証言が複数あるのが特徴です。
- 近年の体験談では、スマートフォンの画面越しに一瞬『こちらに走って突っ込んでくる中年男性』が映った、撮影した動画を後で再生すると別の人影が写り込んでいた、というデジタル系の怪異報告が増えています。映像表示と肉眼で見える光景がずれる、という現象が複数の訪問者から寄せられています。
- 赤橋を渡る際に、下から何かに突き上げられるような感覚があったという話があります。橋自体の老朽化による振動という可能性もありますが、湖面に何もない時間帯に複数回起きたという報告があり、橋の中央付近でその感覚が最も強いと語られます。耳元で何かを囁かれているような違和感が続いたという体験談もあります。
- 深夜のトンネル内で、女性のうめき声と猫のような『ニャー』という声が同時に聞こえたという投稿が残されています。茶髪の女性の長い髪が腕や首に絡みついた感触があった、という直接的な体験を語る方もおり、トンネル内では複数種類の感覚刺激が同時に起きるパターンが報告されています。
- 住所
- 千葉県鴨川市打墨(うっつみ) [地図]
- 交通
- JR外房線『安房鴨川』駅から徒歩約69分、または車で約20分。鴨川有料道路を降りてホテルKAHO付近に案内板あり。
- 現況
- 農業灌漑用ダムとして稼働中。釣り場としての利用は許可制。赤橋は2026年1月以降完全立入禁止。
- 訪問覚書
- 夜間の単独訪問・立入禁止区域への侵入・大人数の肝試しは厳禁。外周道路からの見学にとどめてください。
- 確認日
- 2026-05-08
金山ダムが心霊スポットとして語られるようになった経緯を、もう少し丁寧にお話ししたいと思います。
千葉県南部の鴨川市は、太平洋に面した温暖な気候と、北西部の山あいの深い谷地形を併せ持つ土地です。
古代には『阿波(あわ)の国』と呼ばれた房総半島の南端に位置し、古墳時代から中世にかけて、独自の文化圏を形成してきました。
鴨川市の北西部、金山ダムの周辺は、当時の祭祀遺跡や古代王の伝承が色濃く残る地域でもあります。
一説には、房総の古代王の一族がこの谷で祀られていたとも伝わり、現在もweb上の研究では金山ダム周辺の山々を『古代信仰の場』として読み解く試みが続けられています。
ダム建設が始まった昭和二十七年、この谷には小さな集落と農地、そしていくつかの祠や墓地が散在していました。
ダム湖の建設にともなって、それらは湖底に沈むことになります。
当時の住民は補償金を受けて移転していきましたが、移転対象とならなかった山中の祠や、忘れ去られていた古い墓地のいくつかは、湖底にそのまま残されたとも伝わります。
これは現在の心霊伝承の一部、特に『湖底に何かが沈んでいる』という感覚の源泉になっているのではないかと、私は思います。
ダムが完成したのは昭和四十一年(一九六六年)の春です。
その後の三十年ほどは、農業用水の供給と釣り場としての利用が中心の、地味なダムでした。
それが心霊スポットとして広く知られるようになったきっかけが、二〇〇〇年代初頭に放送された心霊探訪番組『恐怖の現場』で、稲川淳二氏がここを取り上げたことでした。
番組のなかで稲川氏は、ご自身が夢のなかで見たという奇妙な場所として金山ダムを紹介し、実際にロケで訪れたうえで、トンネル内・赤橋・湖周辺で起きたという体験を語っています。
この放送が決定打となり、金山ダムは関東圏の心霊愛好家にとっての聖地のひとつとなりました。
二〇一〇年代以降、心霊系YouTubeチャンネルが急成長すると、金山ダムは関東圏で必ず取材される定番スポットの一つとなります。
島田秀平氏のチャンネル、ゾゾゾ、その他多数のチャンネルが取材に訪れ、関連動画は五十本以上にのぼると言われます。
地元のテレビ局でも『もののけの迷い家』など心霊系番組のロケ地として複数回取り上げられました。
報告される怪異のレパートリーは、こうした取材の歴史を反映して、戦後の伝統的な目撃談(赤い服の女性、カップル心中の女、子守唄)と、二十一世紀以降のデジタル系怪異(スマホ画面の人影、動画に写る奇妙な光)が、層をなして共存しています。
怪異の話は、メディアと土地の記憶が相互に呼び合うかたちで、新しい体験談を生み続けてきました。
二〇二六年一月、赤橋は老朽化と安全上の問題から完全に立入禁止となりました。
これは構造物としての寿命と、心霊スポットとしての過剰な訪問者対策の両方を兼ねた措置だと地元では受け止められています。
柵を越えての撮影や肝試しは、不法侵入として警察への通報対象となります。
心霊スポットとしての金山ダムを楽しみたいという気持ちはわかりますが、まずは私有地・立入禁止区域への侵入を避けることが、地元の方々への礼儀です。
私が金山ダムについて思うのは、ここが単なる怖い場所ではなく、千年以上の地域の記憶、ダム建設で水没した戦後の集落、そして現代のメディアが運び込んだ怪談——三つの層が湖面の下で静かに重なり合っている場所だ、ということです。
皆さんが訪れる場合は、外周の道路から湖を眺めるだけでも十分にその空気を感じ取れる場所だと、私は感じています。
- 赤橋(吊り橋)は2026年1月から完全立入禁止です。柵を越えての通行は不法侵入罪となります。
- 素掘りトンネル内は照明がほとんどなく、車両との接触・落石の危険があります。歩行は推奨されません。
- 金山湖は泥底で水深が深く、転落すると引き上げが困難です。湖畔への接近は注意してください。
- 深夜の単独訪問は厳禁です。複数人で行動し、可能な限り日中の外周見学にとどめてください。
- 近隣は私有地・農地が混在します。深夜の大声・大人数訪問は地元住民の生活を脅かします。
- 釣り目的の場合は許可が必要です。事前に鴨川市または管理者に問い合わせてください。
- 心霊目的の肝試しはマナー違反です。器物損壊・落書き・ゴミ放置は犯罪となります。